ろば

161121

「うちの店に飾るような下手な絵を、誰にも無断でこっそりと描いてくれないか?」

「信じられないようだけど、私は誰かに無断で絵を描くことなんてできない」

「店の猫に見せたいだけなんだ、猫じゃなくてもいい、花瓶に花を挿すとき、目障りになるような絵を」

「私は昨日、花を描くことはやめようと決めたの。花と、それに類いする、花のようなきらめき」

「うちの店はカレー屋じゃないし、そもそも食べ物なんて僕は作ったことがない」

「石ならあげるわ、とても硬い、だけど、私にとってはちょうどいい、驢馬のような」

「月を見たんだ、まったくぶさいくな、あまりにも正直な、いつも人の目を気にして、そのくせ自分が何色かも知らない」

「私が最後に描いた絵も月だった。15年前」

「月ばかり見ていれば良かったんだ、テレビなんか見ないで、塀を飛び越えて、アンテナ越しに」

「今はやわらかい布を探すことで頭がいっぱいなの。あなた知らない?この世界で一番やわらかい」

「椅子を持ってくればよかった、最近腰の調子がよくなくて」

「鳥の声がするわ。あれは驢馬かしら」

「僕は店をたたもうと思うんだ、最近すっかり宇宙人しか来なくなった」

「安いお店が増えたものね、やすいお店は行きやすいし入りやすい」

「途中まで読みかけてる本があるんだけど、どうもページが抜けている気がするんだ」

「誰にも無断で抜け出していくことなんてしないわ」

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